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東京地方裁判所 平成5年(ワ)16895号 判決

原告 破産者本間建設株式会社破産管財人 瀧澤秀俊

被告 新東洋合成株式会社

右代表者代表取締役 月城則男

右訴訟代理人弁護士 米倉偉之

右訴訟復代理人弁護士 幸村俊哉

主文

一  被告は原告に対し、金一三〇万円及びこれに対する平成四年一一月一二日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金一三〇万円及びこれに対する平成四年一一月一一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、訴外本間建設株式会社(以下「破産会社」という。)が、平成四年一一月一一日に被告に対してなした一三〇万円の弁済について、原告が、第一次的には破産法七二条二号(支払停止後の弁済)に基づき、第二次的には同条一号に基づき右弁済を否認し、被告に対し右金員の支払いを求めている事案である。

二  争いのない事実

1  破産会社は、平成五年四月二八日、東京地方裁判所において破産宣告を受け、原告は同日破産管財人に選任された。

2  破産会社は、土木建築の請負工事等を行う会社であり、被告は防水工事等を行う会社であるが、被告は破産会社の下請をしていた。両社は昭和六〇年ころ取引が始まったが、その後数年間は取引がなく平成三年ころから再び取引するようになった。

3  平成四年一〇月二一日、破産会社が被告に対し振り出していた約束手形が資金不足を理由に不渡りとなった。

4  破産会社は平成四年一〇月三一日に同社を再建の目的で破産会社の債権者に債務の支払いを延期してもらうため債権者を集め説明会を開いた。

5  被告は破産会社に対し約二八〇〇万円の債権を有していたが、平成四年一一月一一日、破産会社は被告に一三〇万円を支払った。

6  前記債権者集会の後、破産会社は新規受注契約がとれず、平成四年一一月一三日、再建を断念することを決定し、同月一四日付で自己破産の申立てをする旨の通知を債権者に出した。

7  破産会社は平成四年一一月二六日に二回目の不渡りを出し、銀行取引停止処分を受けた。

三  争点

1  破産会社が、平成四年一一月一一日、被告に対してなした一三〇万円の弁済(以下「本件弁済」という。)は、破産会社の支払停止後のものか。

(原告の主張)

平成四年一〇月二一日、破産会社が被告に振り出していた約束手形が不渡りとなったことにより破産会社が一般的継続的弁済不能状態となったのでその後の本件弁済は破産会社の支払停止後のものである。

(被告の主張)

破産会社は平成四年一〇月二一日、第一回目の手形の不渡りを出したが、同月二六日支払期日の約九八〇万円の手形は決済しており、また、同月三一日の債権者を集めた説明会においても今後の資金繰りは大丈夫である旨債権者に説明していたのであるから本件弁済のあった同年一一月一一日には破産会社は支払停止になっていない。

破産会社が支払停止になったのは、破産会社が再建断念の通知を出した同月一四日以降である。

2  仮に本件弁済が破産会社の支払停止後になされたものでないとしても、本件弁済は破産会社が破産債権者を害することを知ってなしたものか。

(原告の主張)

破産会社が、平成四年一〇月三一日、債権者を集めた説明会において示した再建案は、その資金については新規工事受注による前受金を引当てにするもので元々かなり不確実なものであったこと、かつ、新規受注も不調となり、再建断念を決意したのが同年一一月一三日であることからすれば、その二日前である同月一一日になされた本件弁済は、他の破産債権者を害することを破産会社は認識していた。

(被告の主張)

破産会社は、第一回手形不渡り以降、本件弁済まで従前と変わらず営業を行っており、破産会社は被告及び他の債権者に対し倒産はせずに事業は継続できる旨の説明をしていたのであるから本件弁済は破産会社が破産債権者を害することを知ってなしたものとはいえない。

第三争点に対する判断

一  争点1について

1  破産法七二条二号の支払停止とは、債務者が期限の到来した債務を資力が欠乏したことにより一般的継続的に弁済できないことを明示的又は黙示的に表示することをいうが、同号において否認権を認める理由が、破産債権者間の平等を守り、偏頗な行為を禁じるところにあることからすれば、手形の不渡りが資金不足により生じた場合には、支払能力の欠如を外部に表示したといえるから、その理由が手形決済能力は有していながら、資金の手当てを失念したというような場合を除き第一回目の不渡りの場合であっても支払停止に当たると解すべきである。

2  これを本件についてみると、≪証拠省略≫、証人本間によれば、破産会社が手形の不渡りを出した平成四年一〇月二一日の一年ないし一年半前から手形決済を銀行融資によりまかなうという状態となり、不渡りを出した時点における資産状況は、負債一〇億円以上、資産五億五〇〇〇万円位であり、破産会社のメインバンクであった東京産業信用金庫は破産会社に対する金融支援を拒否した状況であったことが認められ、これらの事実からすれば破産会社の手形の不渡り第一回目の時点において、支払能力がなかったといえるから、右不渡りは、一般的継続的に弁済不能状態となったことを黙示的に表示したものといえる。

したがって、本件弁済は支払停止後のものというべきである。

3  原告は、否認権行使の対象となる本件弁済のなされた平成四年一一月一一日から遅延損害金を請求しているが、遅延損害金は本件弁済の翌日から生じるというべきである。

二  以上により、その余の争点について判断するまでもなく、原告の請求は理由があるから(遅延損害金については平成四年一一月一二日を始期とする限度で理由がある。)、これを認容し、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中治)

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